大学時代、めちゃめちゃよく眠れている時期があった。
寝入るときに急に多幸感のようなものが湧いてきて、
赤ん坊になったような、優しさに包まれたような。
そして眠りに入っていった。
正確には「寝入る」ことが楽しみだったんだけど
もうその時期はとにかく寝るのが楽しみだった。
その日もぼくはただただ純粋に寝るのが楽しみな変態で、
いつものように少し壁際に寄った位置で横向きになった。
今やると肩の位置や負荷がかかっている感じが気になってできなくなってしまったのだけど、
なぜかそのときは横向きに寝るのがベストだった。
しばらく目をつむって待っていると、きた。
脳が睡眠にシフトしていく感じで、
その過程の感覚が気持ちよかった。
重力やあらゆる負荷を感じなくなる。
意識は多少曇っているもののはっきりしているけど、
体は動きそうな感じがしない。
分離しているように感じた。
その日は少しいつもと違うことに気付いた。
なんだかこの状態がいつもより長い気がするし、何かが違う。
壁が見えていた。
目は閉じているはずだった。
感覚的にもそれは分かる。
そして壁を確かめるように手で触ってみた。
知っている通りザラザラとした感触が指に伝わるが、
これも違和感があった。
腕は動いていないはずだった。
右向きで横になっている状態で右手は出ないと思うし、
感覚的に両腕とも動いていない。
では今おれが動かしているおれの右手はなんなんだ…。
その時点で特にそこまで考えたり焦ったりせず、
ただ不思議に思っていた。
そのあとどうなったか忘れてしまった。
そのあとも普通に気持ちよく寝れる日が少しだけ続いて、
トータル2週間くらい続いていた。と思う。
季節は忘れた。
布団を被っていたかも思い出せない。
なかなか眠れないとき、たまにこのことを思い出す。